独身アラフォー女の趣味と仕事と思い出話

パンツ丸見えになっても尚、死守しなければならないものがある

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え…
振り返った瞬間、絵美が階段を転げ落ちてきた。
まるで映画のワンシーンのように。
ゴロンゴロン回転しながら。

私は、現実に階段を転げ落ちる人というのを初めて見た。
絵美はとうとう一番下まで転げ落ち、
悶絶の声を発しながらクラリネットを死守していた。

愛する我がクラリネット。
いわば分身のようなクラリネットを抱えて。
ひっくり返っている。

動かない。動かないでうめいている。
パンツ丸見え。
ひっくり返ったカエル…。

もはや堪えられるわけもなく、爆笑しながらクネクネと駆け寄り、
「ちょwwwwマジwwww大丈夫!?」(笑いすぎて裏声)
身を捩りながら絵美を起こし、フラフラになってバスに乗った。

こんなときに限って、バスには私の中学時代の後輩たちが乗車しており、
しかも一部始終を見ていたらしく、恐らく絵美のパンツも見てしまったらしく、
「セ、センパイ…お、お久し振りです」とかしどろもどろになっていた。

絵美は膝が擦りむけて、THE・流血。
痛いよ~マジ超痛いよ~と繰り返すもんだから、腹が捩れて大変である。
会場についても尚、痛々しい彼女は皆の注目を一心に集めていた。

その日の演奏会会場はパルテノン神殿に似ていると言われる施設。
私にとっては近所ということもあり、幼いころから馴染みのある場所だ。

演奏が終わると、各学校で表の階段で記念の集合写真を撮る流れとなっていた。
演奏も無事終わり、舞台袖に捌けたその流れで表へ。

途中先輩が係の用事でそちらへ寄らなくてはならないので、
すまないが楽器を持って行ってくれないかと頼まれた。
私は自分のクラリネットと先輩のクラリネットを両手持ち。

クラリネット二本持ちで階段のあたりをフラフラしていたその瞬間!

え!!!!!!!!!!!

視界が一気に空。
私は階段を踏み外してクラ二本持ちのままひっくり返ったのだ。

とっさのことで。
よりによって先輩のクラリネットを持っていたので、
なにがなんでも無意識に死守したのだろう。
肘から地面に勢い良くつき、カエルのようにひっくり返り。

パンツ丸見え。
動けない。
何が起きたのかわからない。ただ、一面が空。

呆然としていると視界にたくさんの顔が覗きこんできて、
大丈夫?大丈夫?と騒がしくなって。
ようやく事態を把握できた。
で、肘から血を出しながらパンツよりも先に確認したのはクラリネットである。

あのときぜってーパンツ丸見えだったよなと気付いたのは、後のことだ。
当時、自分にとってパンツより大切だったのはクラリネットだ。
私も。絵美も。

そしてこの日、より大勢の前でパンツ丸出しの醜態を晒したのは
絵美の姿を爆笑した私の方である。

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